仕事

組織の捉え方

「シリコンバレーのコーチ」と呼ばれたビル・キャンベルは、コミュニティー作りの達人でした。

フットボールや野球の観戦ツアーを企画したり、ゴルフのコーナメントや釣り旅行を企画しました。
これらの企画は最初、ごく親しい友人やその家族で始めたのですが、新しい人が参加すると、ビルはみんなに紹介して回りました。

そして、自分の死後も、この集いを続けられるように、お金を基金として残しました。

ビルが始めたこれらのコミュニティは、ここでの出会いを通じてセールスを行うというような、いわゆる打算的な目的で近づいてくる人は皆無でした。

ビルが優秀なビジネスマンであり経営者であったことは論を待たないのですが、「コミュニティが打算の応酬をする場ではない」ことは、誰にとっても明白だったからです。

内村鑑三という、戦前に活躍したキリスト教徒の思想家がいます。彼は、無教会主義という教派の創始者と呼ばれています。

無教会主義とは、元来は教会を否定する人々を表すのではなく、教会に受け入れてもらえなかった人々のことです。

内村は、「あらゆるセクト(組織)から離れよ」と説きました。宗教であれ何であれ、組織の生まれるところには権力が生じ、権謀術数が渦巻き、様々な悲喜劇が生じる、と。それは人間を不自由にするので、少なくとも自分は、そういったものから自由でありたい、というのが彼の考え方であったと私は理解しています。

もっとも、内村の死後に、毎年信奉者を集めて講義を行っていた軽井沢に「石の教会」が建てられましたし、無協会主義はプロテスタントの一教派として、現在活動しています。

組織から離れたい人であっても組織から離れることが出来ないのが人間です。時折、山里や離島で一人で生きる仙人のような人もおりますが、やはり孤独に耐えられる人というのは少ないのでしょう。

職場で、他人のプライベートに必要以上に関心を持つのは野暮であり、失礼でもあると、私達は今までそのように考えてきたと思うのですが、ビル・キャンベルの生き様を知ると、私達はもっと他人に関心を持っていいのだと思います。

ユニークなのは、ビルの葬式で弔辞を読んだのは、彼が生前親しくしていたタクシー・ドライバーだったこと。

そして、ビルが休日にボランティアでフットサルのコーチをしていた時に、スティーブ・ジョブズから電話がかかってきても、「今、僕がやらなくちゃならないことは、君達を教えることだ」と言って、教え子達の目の前で携帯の電源をオフにしたことです。

「あの時はシビれたよ。だって、世界で最も有名な企業家からの電話よりも、お前達のほうが大事に決まってる、て言ってくれたのだから」
後年、その時の様子をインタビューで語った当時の教え子さんがいます。