思想

火星の墓標

アヌはエンリルと共に地球を訪れました。入植地の拡大とさらなる入植地の建設、金の採掘場であるアブズ、これらの采配を誰が取り仕切るのかという課題について直々に判断するためです。

エリドゥの指揮権を巡ってエアとエンリルが対立したので、アヌは自身も含めて籤引をしました。

その結果、アヌがニビルの統治、エンリルはエリドゥと川の中州までの陸地の支配者、エアはアブズと中州以降の海の支配者となることにしました。

経過を眺めていたアラルが異を唱えました。

「話が違うではないか。私は金を発見した功績で王位に返り咲くことが約束されていたのに、そなた達の一族でこの世界を支配しようというのか」

アヌは言いました。
「ならば、今ここで取っ組み合いを始めよう」

男達は服を脱ぎ始めました。男はいざとなったら脱ぐんです、今も昔も。

取っ組み合いの末、アラルはアヌに倒され、アヌはアラルの胸に足を乗せ、勝利を宣言しました。

その時です。アラルはすばやく立ち上がり、アヌの両足を掴んで大地に引き倒しました。

そして、アラルはアヌの陰茎を喰いちぎり、飲み込んでしまったのです。

アヌは絶叫しました。

アラルはその場で取り押さえられ、連行されました。

アヌのニビルへの帰還後、この事件に対する裁判が行われ、アラルにはラーム(火星)に流刑とし、その地で生涯を終えること、という判決が下されました。

アラルをラームに送る操縦士を担当したのはアンズという人物なのですが、彼は自分もアラルと共の火星に残り、彼の余生を見届けたい、と申し出ます。

後にニンマーというアヌの娘でエアとエンリルとは異母妹に当たる軍医の女性が地球に来ました。

火星に立ち寄り、アラルの消息を知ろうとすると、アンズが倒れて死んでいるのを発見しました。

ニンマーは蘇りの術を使ってアンズを生き返らせ、彼からアラルの最後の様子を聞きました。

アラルは苦しみ悶え、口から内臓を吐き出して死んだそうです。

アンズは洞穴の中にかつてのニビルの王、アラルを鄭重に埋葬し、入口を石で塞ぎました。

ニンマーは墓を掘り起こし、アラルの死を確認しました。

ニンマーは火星の岩をレーザー光線によってアラルの顔にかたどり、モニュメントとしました。

ニビル以外の地で亡くなった初めての王、アラルを追悼するために。

アラルの顔をした岩は、はるか彼方のニビルを見つめているのだそうです。