仕事

誠の信頼関係

実質7年で、現在の貨幣価値に換算して200億円の藩借金を返済し、それのみならず、さらに200億円藩の財貨を蓄えた山田方谷。

彼を藩の元締役兼吟味役に抜擢したのが、板倉勝静(かつきよ)です。

板倉勝静は松平定信の孫です。備中松山藩に養子として来ました。

方谷は、勝静の侍講の命を受け、儒学の講義を行いました。

方谷は面白いことに気付きました。冬に勝静は、炉辺に全く近寄らなかったのです。
不思議に思い、「若君は、炉辺で暖を取られませぬのか」と尋ねると、「夏の昼寝と冬の暖炉はしたことが無い」と返答をしました。

桑名藩から来た若君は松平定信の孫であり、松平定信は徳川吉宗の孫です。

英君を育てた質実剛健の家風を、勝静は受け継いでいました。

その勝静が家督を継ぐと、「備中松山藩の元締役兼吟味役をするように」とのお達しでした。

そろそろ隠居をしようとしていた人が、いきなり財務大臣に任命されたようなものです。

何が何でも断ろうとする方谷と、何が何でも引き受けてもらおうとする勝静。

何だか面白い。

今、社長になりたい人や総理になりたい人は沢山いると思いますが、指導者の原点は「なりたい人よりもならせたい人」です。これは今も昔も変わらぬ真理のようです。

かくして、このコンビによって幕末史上最大の藩政改革が行われることになります。

ここから先は現代企業小説さながらの、銀主(債権者)との交渉あり、反対派との対決ありで、波乱万丈の人生です。

「代々の家来でもないし、そもそも元はと言えば農民ではないか」と方谷の異例の出世を妬む声もあったのですが、彼の人格と手腕に皆、魅せられたようで、しまいには「この人のためなら」と藩の誰もが協力を惜しまぬようになりました。

刀を抜かない闘いもあります。