人物

風変りな少年

ジョーンズというアメリカ人が中国杭州の西湖のほとりを歩いていた時のことです。

地元の中国人の少年が、自転車に乗って英語でジョーンズに語りかけながら近づいてくるではありませんか。

中国奥地の、東洋人が言うところの「桃源郷」のような景色に見とれていると、ここで英語で話しかけられるとは予想もしていなかったので、ジョーンズは嬉しくなりました。

見るとその少年は、体のわりに頭が大きく、痩せてはいるが体を鍛えていることがわかります。英語は多少、修正の余地はあるものの、その論旨は明快で、この少年が大変聡明な人物であることを物語っていました。

とりわけジョーンズが注目したのは彼のその笑顔でした。

誰しも笑顔は魅力的なものですが、彼のその笑顔は一度見たら忘れられずにはいられないほどの輝きを放っていました。

聞くと、少年は自分の英語力をアップすることと、欧米人との会話を通じて将来のビジネスに役立てようと志し、英語による観光ガイドを無償で引き受けている、とのことでした。

「いいだろう、サン・ボーイ。君との出会いによって、私の旅行はいつもより特別なものになりそうだ」

ジョーンズはその少年を「太陽少年」と呼び、導かれるように彼のガイドを受けました。

楽しい時間は瞬く間に過ぎ、別れ際に、ジョーンズは少年の名を尋ねました。

「馬雲」

とその少年は答えました。

それから十数年後、ジョーンズは手にしたフォーブス誌の表紙を見て愕然としました。

(あの時の少年だ)

大人になったが、あの時の人懐っこい笑顔は健在です。

かつての少年、ジャック・マーはアリババ・グループの総帥として、世界市場を視野に事業展開に乗り出していました。