随想

旅立ちの丘

秩父市の秩父ミューズパーク内に「旅立ちの丘」という場所がある。

卒業式で唄われる『旅立ちの日に』という曲を秩父の人が作ったそうで、デッキに人が上がるとフルコーラスが聴けるようになっている。(平成3年、1991年 作詞 小嶋登 作曲 坂本浩美。秩父市立影森中学校の音楽教師であった坂本氏が音楽で秩父を元気にしようと発案し、作詞を翌年に定年退職する予定だった校長の小嶋氏に依頼、小嶋氏は「僕にそんな才能はないから」と断ったのだが、翌日には坂本氏の机に歌詞をしたためた紙が提出されていた。その年度の卒業式で先生方の作ったオリジナルの卒業曲としてサプライズ発表された。その時一度限りのイベントのつもりだったが、翌年から生徒達が歌うのが慣行となり、以後、全国に普及する。秩父には音楽寺という寺もあり、影森中学校は合唱により、生徒達の情操教育に力を入れていた。)

子供がいないので昨今の卒業シーズンの話題に疎いのだが、最近では『仰げは尊し』は歌われず、『旅立ちの日に』が歌われることが多いようだ。

恩師に感謝を捧げるという僕らが中学生ぐらいの頃にはごく当然の価値観が、儒教的として古いと思われたのか、先生方も「尽力して教え子には教えたが、わが師の恩と歌われるのは面映い」ということなのだろうか。

何故そのように思ったのかというと、「旅立ちの丘」のすぐ近くに、朝日新聞の記者が秩父を訪れた際の随想が新聞記事から引用して看板として掲示されているからだ。

竣工式に招待されたのだろうか、と推察する。

歌の内容が反道徳的であるとは思わないのだが、日本のGDPがどんどん落ちて行った原因が、このようなところにもあるとは考え過ぎだろうか。