人物

愉快な人生

渡部昇一氏は英文法学者であり、歴史認識や政治経済に関する時事問題にも積極的に発言してきた論壇の重鎮である。

学生時代はイギリス、ドイツ、アメリカに留学し、社会人となってからは当時の日本人としては珍しく豪華客船の船旅に参加した。

それだけを聞くと、「ああ、さぞかし裕福なご実家だったのであろう」と想像する方も多いと思うが、実は学生時代は貧しかったそうだ。

庄内藩の没落支族の家の出であり、上智大学には特待生として入学した。

学費を免除されたのだが、首席の地位を明け渡すと学費を免除してもらえなくなる。

だから、寝食を忘れて勉強したそうだ。

学生時代の座右の書はサミュエル・スマイルズの『西国立志編』だったそうだ。

刻苦勉励して経済的にも繁栄していきましょうという本で、渡部氏の青年時代はその内容を忠実に実行した生活をしていた。

縁あって海外留学の機会に恵まれたが、学業を進めるという大義名分以外に、もう一つ、渡部氏には留学の目的があった。

それは、アングロサクソンの隆盛の秘密を探ることだった。

アメリカの繁栄は言うに及ばず、かつてはイギリスも七つの海を支配した、と言われていた。

そこには理由があるはずだ、と彼は考えた。

そんな時に、イギリスの書店でジョゼフ・マーフィーの著作に出会った。

渡部氏の疑問は氷解した。

この成功哲学こそが、アングロサクソンを繁栄に導いたのだ、と。

そこで、大島淳一というペンネームでマーフィーの著作を紹介した。

日本の読者にマーフィーの著作を紹介したのは、渡部氏によると彼が最初である。

しかし、数年前まで学生だった自分が人生論のような本を実名で発表するのを憚った。

奥ゆかしさという美徳を日本人が多分に持っていた時代だった。

アファメーションやイメージングという、成功のための今日でも通用する理論と実例が多数紹介されている。

次は、あなたが成功しよう。