随想

永遠の女性

女優のエヴァ・グリーンさんが来日したそうだ。

さほどニュースにならないのは、プライベートで来られたらしく、そっとしておこうという周囲の気づかいかもしれない。

『カジノ・ロワイヤル』でヴェスパーを演じた女優さんだ。

本作はダニエル・クレイグ版の007の最初の作品であり、ヴェスパーはジェームス・ボンドの恋人役だった。

ジェームスはヴェスパーとの結婚を決意し、将来の妻とやがて生まれてくるであろう子供達のために危険な仕事をやめる、つまり引退を決意していた。

ところが、ヴェスパーは敵対する組織との抗争に巻き込まれ、命を落としてしまう。

ダニエルの最後の作品でヴェスパーの墓参りをするシーンがあるから、ジェームスは彼女のことを忘れていなかった。

別の女性と結ばれ、子供が出来た。

おそらく、「もう私のことは忘れて。そして新たな人生を歩んでちょうだい」というインスピレーションを受けたのだろうと解釈している。

時に様々な作品の中で、永遠の女性とも言うべき存在が出てくることがある。

代表的なのはダンテにとってのベアトリーチェだろう。

ダンテの初恋の人だそうだが、16歳くらいで亡くなってしまう。

『神曲』を最後まで読んだことはないのだが、作中でもベアトリーチェは登場するそうだ。

あるいは『どうする家康』での瀬名(築山殿)。

「どうする」では瀬名はカントの永久平和論を学んだかのごとく、諸国との通商を盛んにし、平和を実現しようと持ち掛ける。

途中までこの構想はうまくいった。

築山殿が自害したということは、謀反の疑いをかけられたのだろうということで、あまり築山殿を良く言う人はいなかったし、「史実からの逸脱である」と批判する人もいた。

けれども、あながち荒唐無稽な話ではないかもしれない、と私は思った。

何故なら、家康は確かに戦国の世を終わらせたし、時折思い出したかのように薬の調合をしていたのは、築山で亡き妻が自分のために薬を調合してくれたから…とすれば話が繋がるからである。

この世が時に散文的であることはよく知っている。

だからこそ、折にふれて永遠の女性が登場することは意味のあることだと思っている。